船橋で織りなす日本語模様18【行々林】 草木が生い茂った驚きの林
行けども行けども林が続く。そんな草木が生(お)い茂った地域に、昔の人はどんな名称を付けたのでしょうか。
船橋市に「おどろばやし」という地名があります。
おどろばやし
漢字は「行々林」。
行々林(おどろばやし)
どこまでも続く林に「驚いた」ということで、行々林と書き、「おどろばやし」と読んだのです。
しかし、これでは、だれもが読めるというわけにはいきません。そこで、1965年、鎮守(ちんじゅ)の鈴見神社にちなんで「鈴見町」という地名に変更されました。
今は「行々林入口」というバス停に地名が残っています。
また、鈴身町には行々林(おどろばやし)せせらぎの森もあります。
「驚く」は現代では、ビックリするという意味ですが、もともとは、はっと気づくという意味でした。
『古今和歌集』に次のような有名な歌があります。
秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ おどろかれぬる (藤原敏行)
【秋が来たと目にははっきりと見えないが、風の音にこそ、秋が来たのだと、はっと気づかされたことよ。】
「おどろかれぬる」は、古語の自発と完了の助動詞が使われていて、「思わず」といった気持ちが強調されています。
一方、行々林(おどろばやし)の地名由来について、「驚いた」説には疑問も発せられています。
船橋市デジタルミュージアムのホームページには次のように記されています。https://adeac.jp/funabashi-digital-museum/text-list/d100050/ht400350
行々林の語源については、行けども行けども林が続くので驚いたからという話があるが、これは音と字からこじつけたものである。
実際の語源説には、
①荊(おどろ)は草木の乱れ茂っているさまであり、おどろおどろしに通じ、うっそうとした林の意、
②荊蕀(おどろ)林で、いばら等の茂っている林の意、
③トドロキ林の転化で、近くに滝や勢いよく水の流れる所か湧く所がある林の意等があるが、
この内では①説がやや妥当と思われる。
「船橋市デジタルミュージアム 船橋の地名の由来を探る」より
うっそうとした林がおどろおどろしい様子だというのが、有力説だということです。
「おどろしい」という形容詞もありますが、今は「おどろおどろしい」という表現の方が聞かれます。
不気味な様子や恐怖を感じる状況を指します。
「この古い家は幽霊屋敷みたいで、実におどろおどろしい。」などと言います。
ところで、「おどろ髪」という言葉があります。これは、手入れの行き届いていない乱れた髪のことです。
かつて草木が生い茂るにまかさせていた「行々林」は、この意味でもまさに「おどろばやし」と言えるのでしょう。