船橋で織りなす日本語模様2【船橋橋】 なぜ「ふねはし」ではなく「ふなばし」?
海老川沿いの河津桜が満開です(2024年3月15日撮影)。早咲きで知られる濃いピンクの花びらが目を引き、枝が川面にしなだれかかっています。
海老川河口に最も近い橋は「船橋橋」です。「船橋」に「橋」が付いた、しつこい感じのする橋の名前です。
海老川に架かる橋一つずつに、それぞれテーマがあります。船橋橋は「海へのロマン」。モチーフは、カッパです。日本各地にカッパ伝説がありますが、この海老川にまつわる伝説は、カッパのいたずらを人間の知恵で防いだというエピソードです。
さて、そもそも「船橋」は、なぜ「ふねはし」ではなく、「ふなばし」と読むのでしょうか。それは、日本語の読み方のルールにしっかりと則(のっと)っているからです。
「ふなばし」という読み方には、語が複合するときに生じる「変音現象」が関係しています。しかも、その変音現象のうちの二つの現象が組み合わさっています。
一つは転音(母音交替)です。
「酒屋」は「酒(さけ)」と「屋(や)」の複合語ですが、「さけや」ではなく、「さかや」と読みます。
sake + ya → sakaya
母音の「e」が「a」に交替しているのです。
「風上」は「風(かぜ)」と「上(かみ)」で、「かざかみ」。
kaze + kami → kazakami
「白玉」は「白(しろ)」と「玉(たま)」で、「しらたま」。
shiro + tama → shiratama
この場合、母音の「o」が「a」に変わっています。
「木陰」は「木(き)と「陰(かげ)」で、「こかげ」。
ki + kage → kokage
これは母音の「i」が「o」に変わる例です。
上記の通り、日本語の名詞における母音交代は3通りです。
e → a
o → a
i → o
もう一つは連濁です。
「本箱」は「本(ほん)」と「箱(はこ)」の複合語ですが、「ほんばこ」と読むように、後ろの語の最初が濁音になります。
hon + hako → honbako
「h」が「b」になります。
「円高」は「えんたか」ではなく、「えんだか」となります。
en + taka → endaka
そして、「雨傘」は「雨(あめ)」と「傘(かさ)」ですが、上記の二つの現象が同時に起こって「あまがさ」と読みます。
amae + kasa → amagasa
母音の「e」が「a」になり、子音の「k」が「g」に変わっています。
この「雨傘」と同じ現象が「船橋」でも起こって「ふなばし」となっているのです。
fune + hashi → funabashi
橋の名称は濁るのを嫌う?
次に、「船橋」+「橋」は、どうでしょうか。橋名板には「ふなばしはし」と平仮名が刻まれています。連濁の「ふなばしばし」ではなく、「ふなばしはし」です。「はし」の「は」は濁音ではなく、清音のままです。
「~ばし」と濁音で発音する橋は意外に少ないようです。「橋」は濁らずに「~はし」と読むことが多いのです。川が洪水や氾濫によって濁って、橋が破壊されるような災害を嫌うからだと言われています。
海老川の残り12の橋名板も「~はし」と、すべて清音になっています。ちなみに、交差点に掲げられている「船橋橋」には「Funabashi Bridge」の英字が振られています。
では、「~川」の読み方はどうかというと、海老川は「えびがわ」、日本3大河川の一つに数えられる利根川も「とねがわ」と濁っています。
船橋市のホームページによると、市内の水系について次のように紹介されています。
船橋市の流域は、利根川水系印旛沼に流入する神崎川(かんざきがわ)流域、桑納川(かんのうがわ)流域と、東京湾に流入する海老川流域、真間川(ままがわ)流域と、その他流域の5つに大別され、市内各流域を流れる河川延長の合計は約100キロメートルに達します。
(船橋市ホームページ https://www.city.funabashi.lg.jp/machi/douro/005/p002719.html)
上記の河川名はすべて「~がわ」と濁音で読みます。
橋名の例にならって縁起を担ぐなら、海老川も利根川も、「~かわ」と濁らないほうがいいのではないかと思いますが、川の名称は「~がわ」と濁音で読むのが普通のようです。濁るのは川の水なので、橋よりも川の読みのほうが大事だと思うのですが……。