船橋で織りなす日本語模様5【さくら橋】 両岸を爛漫と彩る花見の名所
桜ばな いのち一ぱいに 咲くからに
生命(いのち)をかけて わが眺(なが)めたり
これは、小説家・歌人の岡本かの子が、100年前の1924年に詠(よ)んだ和歌です。前年に関東大震災が発生し、多くの命が失われました。生命の尊さを、桜を通して自身に問いかけているように感じます。
船橋市役所のこどもホームページに「みんなのページ」があり、「暗唱のすすめ」として紹介されている短歌二十五撰の一首です。(https://www.city.funabashi.lg.jp/kids/all/tanka25.html)
「芸術は爆発だ」という警句で有名な芸術家・岡本太郎は岡本かの子の息子です。岡本太郎の野外彫刻作品「平和を呼ぶ」像が、ふなばしアンデルセン公園(船橋市金堀町525番)に立っています。

ふなばしアンデルセン公園の「平和を呼ぶ」像(公益財団法人船橋市公園協会提供)
海老川のほとりは桜の名所です。2024年の春は、4月上旬の今、まさに見ごろを迎えています。
川の両岸を彩る桜のトンネルは約3キロにわたります。ソメイヨシノやヤエザクラ、オオシマザクラ、エドヒガンなど、50種類もの桜が約500本。花見を楽しむ市民の憩(いこ)いの場となっています。4月6日土曜、7日日曜の午後も、花をめでる人々でにぎわっていました。
海老川に架かる比較的新しい橋、さくら橋は2000年に完成しました。橋の名称は市民から公募した結果です。記念碑には「市民公募の橋名『さくら橋』に決す、誠に当を得たり」と刻まれています。
また、当地の春夏秋冬の様子をつづり、春については次のように記されています。
春には、岸辺につくしの若芽萌え、
農地には早苗を育み、子等は喜々として
小鮒(こぶな)を漁(あさ)り、桜花、爛漫(らんまん)と咲き誇り
「爛漫」とは、花が鮮やかに咲き乱れている光景を意味します。あたりが輝いて見える様子も言います。「桜花爛漫」「春爛漫」という言葉は、手紙などに書く時候のあいさつとしても使います。
明治時代の古い辞典で「爛漫」を調べてみました。1909年(明治42年)発行の池田四郎次郎著『故事熟語辞典 増補改版』(宝文館)です(引用は現代表記に改めました)。
〔爛漫〕物の満ちて溢(あふ)れんとする形容なり。
【ものがいっぱいになって溢れ出ようとする様子を表している。】
さらに、「天真爛漫」を見ると次のように記されています。
〔天真爛漫〕天より付與(ふよ)せられたる儘(まま)にして、豪(ごう)も人為を交えざるを天真という。
【天から与えられたままで、少しも人為的なものが交じっていないことを天真という。】
その上で、「爛漫」については、こう付記しています。
其(そ)の天真をあらわして、隠す所なきをいう。
【その天真である様子を目に見えるように表して、隠すところがないことをいう。】
「天真爛漫」は人柄を評すときにも使い、飾り気がなく素直で子どものように無邪気な明るい人を言います。
早咲き、遅咲き……個性の開花をサポート
さて、「咲き乱れる」という表現がありますが、なぜ美しく咲いている様子を「乱れる」と言うのか、不思議に思ったことがあります。
「天真爛漫」の意味を調べて、少し分かった気がしました。
それは、自然そのままを美しいと感じる日本人の気持ちを表したのかもしれない、と思ったからです。
花は秩序立てて咲くわけではありません。あるつぼみは他よりも早く咲くこともあれば、じっとつぼみのままで咲くときをじっと待っているようなものもあります。かと思えば、ある日一斉に開花するようなこともあります。
まさに、乱れ咲きです。
「爛」という漢字には「まっさかり」と「くずれる」という意味があるのもまた、妙味を感じます。
留学生にも早咲き、遅咲き、いろいろなタイプがいます。一人ひとりを大切に育み、それぞれの個性の開花をサポートしていきたいと、咲き乱れ、そして咲き誇る花々を見ながら、そう思いました。