船橋で織りなす日本語模様8【九重橋】 乗車人数ベスト20に船橋の駅が2つも!
JR東日本の調査によると、2022年度の乗車人員の最多駅は1位から順に新宿駅、池袋駅、東京駅となっています。(https://www.jreast.co.jp/passenger/)
もう少し順位を下って見てみると、15位に西船橋駅、17位に船橋駅がランクインしています。なんと、「船橋」の駅が、ベスト20駅に2つも!
確かに、両駅とも朝夕、通勤通学の利用客でにぎわっています。
JR系のクレジットカードのコマーシャルで、改札を通ることによって生じる特典について、次のように言ってアピールしていました。
「改札も笑いも止まらない!」
意味としては、「私は改札で止まらなくてもいいし、その上、笑いが止まることはない。」ということでしょう。
副助詞の「も」が有効に使われています。
「も」は同類、並立、強調などを表します。
コマーシャルの表現は並立です。「も」を使わずに表現したら、次のようになるでしょうか。
「改札で止まらない! 笑いが止まらない!」
「も」を使わなければ、文を二つに分けないと表現できないのです。
「改札も笑いも止まらない!」という表現を初めて耳にしたとき、すっと耳に入ってきながら、どこか微妙な面白さを感じました。
それは「も」を使うことによって、「止まる」という動詞の使用が一つですんでいるからだと気づきました。
「改札が笑いが止まらない!」「改札は笑いは止まらない!」は不自然です。
そして、「改札で笑いが止まらない!」「改札は笑いが止まらない!」だと不自然ではありませんが、「止まらない」のは笑いだけに限定されます。
早口言葉の一つに次のようなフレーズがあります。
李も桃も桃のうち。
平仮名で書くと「すもももももももものうち。」となります。
「も」がいっぱいあって読みにくいこと、読みにくいこと。
しかし実際は、「李も桃もバラのうち。」と言ったほうがよいそうです。李も桃も、バラ科に属していて、植物学的には、この早口言葉は正しくないようです。
文豪・太宰治の愛着深い家もあった
『人間失格』『走れメロス』などの代表作で知られる太宰治(だざい・おさむ)は日本を代表する文豪です。
彼は『走れメロス』の冒頭を次のように綴(つづ)りました。
メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐(じゃちぼうぎゃく)の王を除かなければならぬと決意した。(中略)
メロスには父も、母も無い。女房も無い。十六の、内気な妹と二人暮しだ。
この妹は、村の或(あ)る律気(りちぎ)な一牧人(ぼくじん)を、近々、花婿ことして迎える事になっていた。
結婚式も間近かなのである。(中略)
のんきなメロスも、だんだん不安になって来た。
太宰治『走れメロス』
「父も、母も無い。女房も無い。」は同類の列挙です。一方、「結婚式も間近かなのである。」は、一つの事例を挙げて、他にも出来事があることを連想させる用法です。
「のんきなメロスも」は、「のんきなメロスでさえも」というように言うことができ、強調しています。
昨年末(2023年12月10日)に発刊された『くらべてわかる てにをは日本語助詞辞典』(Jリサーチ出版)は、機能別に助詞の働きや意味が分類されています。
「~も」を確認すると、6つの機能のうち「極端な例を挙げて意味を強調する」というのがあり、「のんきなメロスも」の用法は、これに当たると思われます。
助詞「も」が効果的に使われているのが、『走れメロス』の冒頭文なのです。
「文芸」がテーマである九重橋には『走れメロス』の文学レリーフが設置されています。そこには、次のように刻まれています。
走れメロス 太宰治
妹の婚礼を終えたメロスは
刑場めざして走った
遅れれば 身がわりに
親友が殺される
日は既に 西に傾いた
『走れメロス』の刊行は1940年ですから、もう80年以上も前の作品です。ですが、未だに読み継がれている名作です。
九重橋近くの住宅街の一角に、「太宰治旧宅跡」の案内板が立っています。
太宰治は幾度も住居を変えましたが、次のような回想を残しました。
私には千葉船橋町の家が最も愛着が深かった。
太宰治『十五年間』
太宰は1935年7月から1年3カ月ほど、当時の船橋町五日市本宿に住んでいました。
現在、太宰が庭に植えた夾竹桃(きょうちくとう)と青桐が、船橋市民文化ホールのそばに移植され、文学碑と共に目にすることができます。
文豪・太宰治も愛した船橋の地に誕生した日本語学校「BTS言語学院」に、留学生が続々と入学しています。