船橋で織りなす日本語模様15【再び海老川橋 別名:長寿の橋】 「ふわふわ言葉」と「ちくちく言葉」
船橋大神宮を訪れたことのある夭折(ようせつ)の俳人・正岡子規に船橋を詠(よ)んだ句が残っています。
船橋のふわふわ動く胡蝶(こちょう)哉(かな)
「ふわふわ」は擬態(ぎたい)語で、軽いものが揺れたり、浮いたり、漂(ただよ)ったりしている様子を言います。
子規の句は、チョウチョウが空中に浮いて舞うように飛ぶさまを「ふわふわ」と表現しています。
雲や綿などにもよく使われます。
雲がふわふわと流れている。
たんぽぽの綿毛がふわふわ飛んできた。
また、柔らかくふくらんでいる状態も言います。布団などにも言います。
布団がふわふわで気持ちがいい。
今、小学校低学年の道徳に「ふわふわことば」と「ちくちくことば」を取り入れている学校が多いそうです。
「ふわふわことば」は言われてうれしい言葉、気持ちがいい言葉、自己肯定感が増す言葉です。
「ありがとう」「大丈夫だよ」「すごいね」など。
ふわふわ言葉
ありがとう
大丈夫だよ
すごいね
寒い夜にふわふわの布団にくるまると、落ち着いて気持ちがいいように、こうした言葉を受け取ると、安心感に満たされます。聞き手の心を優しく包み込む言葉こそ「ふわふわことば」です。
一方、「ちくちくことば」は言われて嫌な言葉、不快な言葉、自己肯定感を減退させる言葉です。
「ダメだよ」「無理だよ」「下手だな」など。
ちくちく言葉
ダメだよ
無理だよ
下手だな
「ちくちく」とは、針などで繰り返して刺す様子を言います。
心にちくちく刺す言葉は聞きたくないものです。
幸せとは温かくて柔らかいこと
作家の村上春樹氏は1980年代の初めに船橋市内に在住していました。彼が手掛けた作品に『ふわふわ』という絵本があります。
小学生の「ぼく」が老いた雌猫について語る物語です。次のような一節があります。
ずいぶん多くのことを、いのちあるものにとってひとしく大事なことを、猫から学んだ。
幸せとは温かくて柔らかいことであり、それはどこまでいっても、変わることはないんだというようなことを――たとえば。
その猫はふわふわとした、みごとな美しい毛をもっていた。
それはずっと昔の(そして今でもやはり同じように空に浮かび続けている)あの太陽の温かな匂(にお)いを吸いこんで、きらきらとまぶしく光っていた。
村上春樹・文、安西水丸・絵『ふわふわ』(講談社)
この文章に出合い、温かさと柔らかさこそ「ふわふわ」の真骨頂なのだと感じました。
そして、長寿の猫から学ぶ少年の瑞々(みずみず)しい感性に感動を覚えました。
海老川橋は別名、「長寿の橋」です。船橋という地名の由来とともに、世界一の長寿男性としてギネスブックに記載されていた、泉重千代の手形のレリーフが設置されています。
泉重千代は1865年生まれで、1986年に120歳で他界したとされています。しかし、現在では120歳説には疑問が投げかけられているそうです。
正岡子規は1867年生まれで、1902年に34歳で夭逝(ようせい)しました。一部では、子規の食事の摂(と)り方に死を早めた原因があると言われています。
泉重千代による長寿十訓は次の通りです。(鹿児島県伊仙町ホームページ 泉 重千代 翁「ん」「長寿十訓」 https://www.town.isen.kagoshima.jp/mirai/izumishigechiyo.html 参照2024年5月24日)
1.万事くよくよしないがよい
2.腹八分めか七分がよい
3.酒は適量ゆっくりと
4.目ざめたとき深呼吸
5.やること決めて規則正しく
6.自分の足で散歩に出よう
7.自然が一番さからわない
8.誰とでも話す笑いあう
9.歳は忘れて考えない
10.健康はお天とう様のおかげ
誰とでも「ふわふわ言葉」を交わしながら笑い合って、長生きしたいものです。