船橋でりなす日本語模様もよう19【海神】 豊かな表現をもたらす同音異義語の世界

  • 2024年12月23日

2024年は12月21日(土)が「冬至」でした。

冬至は「とうじ」と読みます。

北半球では1年で最も昼が短い日です。つまり、この日から次第に日が長くなってきます。とはいえ、本格的な冬の始まりでもあります。

昔から「冬至、冬中(ふゆなか)、冬始(はじ)め」と言われていきました。

冬至、冬中、冬始め

暦の上では冬至は冬の真ん中だが、実際はこれから冬が始まるのだから気をつけなさい、という注意喚起でしょうか。

昼が最も長いのが「夏至」です。こちらは「げし」と読みます。

「冬至」はなぜ「とうし」ではなく、「とうじ」と濁って読むのでしょうか。

これは、冬至の時には、ゆず湯に入るとよいされていて、「湯治(とうじ)」にかけて、「し」ではなく「じ」と読んだからだそうです。

いわゆる同音異義語による言葉遊びです。

ゆずを湯に入れるのも、融通(ゆうずう)がきくように、との思いが込められた語呂合わせです。

「とうじ」と読む二字熟語はたくさんあります。

冬至
湯治(温泉の湯で治療すること)
杜氏(日本酒の醸造工程を行う職人)
当時(そのとき)
当事(そのことに直接関係すること)
東寺(京都にある世界遺産の寺院)
当寺(話題に上っているその寺院)
唐寺(華僑が建てた寺院など)
投餌(えさを投げ与えること)
悼辞(死を悲しんで述べる言葉)
答辞(卒業式などで在校生が送る言葉に対して卒業生が答える言葉)

「当時、冬至の日には、杜氏さんが湯治の前によく当寺をお参りに来ていたものです。」などと口頭で言われても、何のことか分からないでしょう。

本年10月に刊行された『謎とき百人一首 和歌から見える日本文化のふしぎ』は、著者がアイルランド出身の日本文学研究者ピーター・J・マクミラン氏で、百人一首すべての英訳も掲載されていて、大変興味深い書籍です。

百人一首の16番目は次の和歌です。

立ち別れいなばの山の峰に生(お)ふる まつとし聞かばいま帰り来(こ)ん
(在原行平)

この和歌について著者は次のように述べています。

英語では同音異義語が少ないため、掛詞を再現するのはなかなか難しい。だが実はこの歌には、数少ない英語の同音異義語が用いられているのである。それは「まつ」で、英語の「pine」は、日本語の「まつ」と同じく、「松」と「待つ」という二つの意味を持っている。こうした、日本語と英語両方で掛詞となりうる語は、「まつ」「pine」のほかに今のところ見つけられていない。

ピーター・J・マクミラン『謎とき百人一首 和歌から見える日本文化のふしぎ』(新潮社)

同音異義語の多様性は時として、不便さに通じますが、日本ではそれを逆手にとって、言葉遊びの文化を発展させてきたのです。

船橋市には「海神」という地名があります。

地名の由来について、市のホームページで次のように説明されています。

日本武尊(やまとたけるのみこと)が、当地へ賊徒平定にやって来たとき、海上に光り輝く船があった。

近づいてみると、柱に神鏡がかかっており、それを浜に持ち帰り、祀(まつ)った場所が海神である。

実に由緒ある地名ですが、「かいじん」と音だけで聞くと、最初は「怪人」を思い浮かべ、漢字を確認してなるほどと思った次第です。

冬至に話を戻すと、冬至は昼が最も短い一日だけを指す場合もありますが、二十四節気の冬至と言えば、期間のことです。

2024年は12月21日(日)が冬至の最初の日で、2025年1月4日(土)までとなります。